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ミルクシスルの成分と摂取によって期待できる効能
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Image by Annette from Pixabay |
ミルクシスルの種子には主要成分として シリマリン (flavonolignan 類というポリフェノール成分の混合物)が含まれています。このシリマリンは強力な 抗酸化作用 を持ち、肝臓で発生する活性酸素を中和して肝細胞の損傷を防ぐ働きが期待されています[1]。そのため、ミルクシスルは肝臓の細胞を保護し、肝機能をサポートするハーブとして広く知られています。
またシリマリンには 抗炎症作用 も報告されており、炎症を抑えることで肝臓だけでなく体の様々な臓器を保護する可能性も示唆されています[1]。
こうした作用から、ミルクシスルは伝統的に肝臓や胆のうの不調改善に用いられてきました[2]。
現在、ミルクシスルに期待される効能として最も代表的なのは肝機能の改善です。例えば慢性肝炎(ウイルス性肝炎)や肝硬変、黄疸といった肝疾患の補助療法や、アルコールの過剰摂取後の肝臓ケア(いわゆるデトックス)に用いられることがあります[2]。実際、肝疾患を抱える患者が利用する健康食品の中でミルクシスル由来のシリマリン製剤は最も一般的なものの一つと報告されています[1]。
しかし、こうした効能についての 臨床試験結果は必ずしも一貫していません [2]。ミルクシスルが肝疾患に有用か検討した研究では、あるものは肝機能指標の改善を示す一方、他の多くは顕著な効果が認められず、全体として明確な有益性は示されていません[2]。
例えば、C 型肝炎の患者 154 名を対象とした大規模試験では、ミルクシスル抽出物(シリマリン)はプラセボ(偽薬)と比べて有意な効果を示さなかったと報告されています[3]。
一方で、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)の患者を対象にした近年のメタ分析では、シリマリン投与群で肝酵素値(トランスアミナーゼ)の有意な低下が認められたとの報告もあります[4]。ただし、これらの研究には試験デザインのばらつきや質の限界も指摘されており[4]、ミルクシスルの真の治療効果について結論付けるにはさらなる検証が必要です。
なお、ミルクシスルの効果研究は肝臓以外の分野にも広がっています。
例えば、動物実験や小規模な臨床研究から、その抗酸化・抗炎症作用によって 2 型糖尿病 における血糖コントロールの改善や[2]、抗ウイルス作用による慢性肝炎ウイルスの抑制といった可能性も示唆されています[1]。また、強い肝保護作用を活かし、抗がん剤による肝障害の軽減目的で小児白血病患者に投与された例や、毒キノコ中毒に対する解毒剤として用いる試みも報告されています[1]。
これらはまだ研究段階ですが、ミルクシスルの持つ多様な薬理作用への期待から、世界中で研究が継続されています。
ミルクシスルの生息地域
ミルクシスルは 南ヨーロッパ(地中海沿岸)原産 の植物です[2]。
古くはヨーロッパからの移民によって北アメリカ大陸にも伝えられ、現在では北米東部やカリフォルニア州、南米、アフリカ、オーストラリア、そしてアジアの温帯地域など 世界各地に野生化 しています[2]。
日本へは江戸時代末期の嘉永年間(19 世紀半ば)に渡来し、西日本各地に点在して帰化植物として定着しています[5]。
日当たりの良い荒地や路傍などに自生し、旺盛な繁殖力から 雑草的に繁茂 することもあります。鋭いトゲを持つため放牧地では忌避される一方、鮮やかな花と模様の美しい葉を持つことから観賞用に栽培されることもあります。
ミルクシスルの現在の利用方法
現代の利用法 として、ミルクシスルは主にハーブサプリメント(健康補助食品)や伝統薬として広く用いられています。特に肝臓の健康維持や解毒を目的としたサプリメントとして人気があり、肝炎・肝硬変など慢性的な肝疾患の補助療法、あるいは飲酒後の肝臓ケア(いわゆる二日酔い対策)などに利用されています[2]。
実際、米国の調査では消化器疾患の患者が用いる「肝臓保護サプリメント」としてミルクシスルが最も一般的であるとの報告があります[1]。
またドイツなどではミルクシスルがハーブ医薬品として公的に認められており、伝統的な使用実績に基づいて 消化不良や肝硬変、肝毒性のある中毒の補助治療 への効果が承認されています[1]。日本においては医薬品ではなく食品成分として位置付けられており[6]、シリマリン含有サプリメントやお茶として入手が可能です。
ミルクシスルの摂取形態にはいくつかあります。一般的には種子から抽出・精製した シリマリン標準化エキス を含むカプセルや錠剤のサプリメントとして摂取されます。また、乾燥させた種子や全草を刻んだ ハーブティー として飲用する方法もあります。
植物そのものも食用に利用されてきた歴史があり、新芽や若葉、トゲを除いた茎はかつて野菜として食べられました [7](アーティチョークに似た風味があると言われます)。
現在このような食用利用はあまり一般的ではありませんが、ヨーロッパの一部や中東では伝統的に行われていた地域もあります。
家庭では市販のミルクシスル茶やサプリメントを用いるのが主流で、特に「肝臓のデトックス効果」が謳われる製品として知られています[1]。
医療の現場でも、ミルクシスル由来成分が活用される場面があります。その代表例が 毒キノコ中毒に対する解毒剤 としての利用です。致死的な毒を持つタマゴテングタケ(デスキャップ)の中毒患者に対し、ミルクシスルの有効成分シリビニンの静脈投与が肝臓を守る治療法として用いられています[1]。ヨーロッパや北米での 2000 例以上の中毒事例の分析では、シリビニン静注が他の治療法に比べ有効であったと報告されています[1]。
このように、重篤な肝障害を伴う中毒や疾患の補助療法としてミルクシスルが用いられるケースはあるものの、基本的には 補完代替医療 の位置付けであり、単独で病気を治療できる「特効薬」ではありません。利用にあたってはあくまで補助的な手段と捉え、必要に応じて医療専門家のアドバイスを受けることが推奨されています。
ミルクシスルの形状・特性
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Image by Rajesh Balouria from Pixabay |
ミルクシスルは高さ約 1 メートルに達する 大型の草本 で、茎は直立し株元から多数の葉をロゼット状に茂らせます。 葉 は厚く光沢のある緑色で、不規則な乳白色の斑(まだら模様)が葉脈に沿って入るのが特徴です[5]。
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Image by Manfred Richter from Pixabay |
葉の縁には鋭い棘が並び、触れると刺さるため注意が必要です。夏になると茎の先端に径 5〜7 cm ほどの 頭状花(花序) を一つだけ咲かせます[5]。花序は総苞片(外側の囲いの葉)が重なり合った球状の構造で、総苞片の先端にも硬い棘があります。頭花を形作る 花 は筒状花のみからなり、色は鮮やかな赤紫色から淡紅紫色です[6]。
花が枯れた後には種子(痩果)が実り、黒褐色の種子の先端には綿毛状の白い冠毛が付いて風に乗って飛散します。全草に苦味のある乳液を含み、刈り取ると独特の薬草臭があります。
ミルクシスルの歴史的な利用法
ミルクシスル(ミルクシスル)は 2000 年以上前から薬用植物として利用されてきた 記録があります[1]。
古代ギリシャの医師ディオスコリデス(1 世紀頃)はその著書『薬物誌』の中でミルクシスルの薬効について記載しており、早くもこの頃から肝臓をはじめとする内臓の不調に用いられていたとされています[1]。
中世ヨーロッパでも修道院や民間療法で肝臓の不調やうっ血を改善する薬草として重宝され、16 世紀のイギリスの植物学者ジョン・ジェラードは「憂うつ(メランコリー)による病にはこのアザミが最良の治療薬である」と記し、その 抗うつ効果 (当時の概念でいうメランコリーは肝臓の不調に関連する)を称賛しました[1]。
このように欧州においてミルクシスルは主に 肝臓や胆嚢の疾患を和らげる薬草 として位置付けられ、民間では黄疸や胆石症、産後の母体回復などにも用いられました[2]。
一方、東洋に目を向けると、中国でもミルクシスルは伝統薬として利用されています。
中国名を「 水飛蓟(すいひじ) 」といい、その薬効は「清熱解毒」(体内の熱毒を冷まし解毒する)、 保肝 (肝臓を保護する)、 利胆 (胆汁の流れを良くする)などと伝えられています[7]。中国の本草書によれば、水飛蓟は急性・慢性肝炎や肝硬変、脂肪肝など肝臓疾患全般に対して効果があると記載されており[7]、その処方にシリマリン(漢名: 水飛蓟素)製剤が用いられることもあります[7]。
もっとも、こうした記述の多くは現代になって西洋由来の知見を取り入れたものであり、古来中国で独自に発見・使用されていたわけではありません。しかし東西を問わず肝臓の薬草として似たような利用法が伝わっている点は興味深いと言えます。
日本においては、ミルクシスルは江戸時代末期に渡来した外来種であり、和漢薬(漢方)の体系には含まれていません。明治以降は「大薊」の名でヨーロッパ伝来の薬草として紹介されるようになり、近年は欧米のハーブ療法の知識とともにサプリメントなどでその名が知られるようになりました。伝統的な和薬としての使用歴は乏しいものの、海外の研究や情報を通じて現代日本でも利用が広まったハーブと言えます。
ミルクシスルの民俗的な利用法
ミルクシスルにはその名前の由来となった 有名な伝説 があります。それはキリスト教にまつわるヨーロッパの民間伝承で、「聖母マリアが授乳の際にこぼした母乳がアザミの葉に滴り、その跡が白い斑模様になった」というものです[5]。
この伝説から英語では St. Mary’s Thistle(聖母マリアのアザミ)とも呼ばれ、和名の「ミルクシスル」も聖母マリアに由来しています。葉にまるでミルクをこぼしたような模様があることから英名が「Milk Thistle(ミルクシスル)」になったとも言われ、この神聖な逸話ゆえに中世の修道院ではミルクシスルが 聖なる薬草 として扱われることもありました。
しかし、民俗的な伝承としては名前の由来以外に際立ったものは多くありません。ミルクシスルは主に薬効の面で評価されてきたため、幸運のお守りや魔除けといった伝説は他のハーブに比べると少ないようです。とはいえ、「乳」が名前に付くことから発想を得て、ヨーロッパの一部では産婦の 乳の出を良くする薬草 として用いられたとの言い伝えもあります(この効果に関して科学的根拠は明確ではありません)。総じてミルクシスルは、その聖母伝説と肝臓を救う薬草というイメージによって、人々に長く親しまれてきたと言えるでしょう。
ミルクシスルの参考文献
ミルクシスル (Silybum marianum)の主要含有成分
成分名 | 特性 |
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シリマリン | マリアアザミ由来の成分。肝機能保護や抗酸化作用が報告されている。 |