イエロードック(Rumex crispus)の期待される効能・使い方・成分

イエロードックの概要

イエロードックはタデ科の多年草で、ヨーロッパや西アジア原産の帰化植物です 。葉の縁が縮れた細長い葉を根元から放射状に生やし、初夏に淡緑色の小花を穂状に多数つけます。古くから薬草として利用されており、緩やかな下剤や皮膚疾患の治療など幅広い伝統的用途が知られています 。

イエロードック

イエロードックの期待される効果・効能

イエロードックにはアントラキノン(成分群)の作用による 穏やかな下剤効果 や、タンニン(渋味成分)による収斂作用(粘膜や組織を引き締める作用)があり、 便秘の改善や下痢止め に用いられてきました。また利尿作用や強壮作用、伝統的な「浄血」(血液を浄化し皮膚を改善する)作用があるとされ、 貧血や皮膚疾患の改善 にも期待されています。近年の研究では 抗酸化・抗炎症抗菌・抗腫瘍 など多彩な薬理活性も報告されています。

About

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Efficacy

イエロードックの成分と摂取によって期待できる効能

イエロードック
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イエロードックの根や葉には、多様な植物化学成分が含まれています。近年の総合研究によれば、本種から約 224 種類もの化合物が単離・同定されており、アントラキノン類、ナフタレン誘導体、フラボノイド類、精油成分、クマリン、スチルベン類などが報告されています。[1]

従来の分析でも、根から エモジン (1,6,8-トリヒドロキシ-3-メチルアントラキノン)や クリソファノールフィスシオン といったアントラキノン誘導体、ガロタンニン類(没食子酸などのタンニン成分)、フラボノイドの ケンペロールクエルセチン 、その配糖体(ルメックスケシピンなど)、カテキン類、植物ステロールの β-シトステロールなど多彩な成分が含まれることが明らかになっています [2]

これらの成分の組み合わせにより、イエロードックは古来より様々な薬効を示す薬草として用いられてきました。

伝統的にイエロードックは 下剤 (穏やかな瀉下薬)、 収斂薬 (しゅうれんやく:組織を引き締める薬)、 利尿薬緩和強壮薬浄血薬 (民間的に血液を浄化する薬)、 鎮痙薬 (ちんけい:筋痙攣を鎮める薬)、 利胆薬 (りたん:胆汁の分泌を促す薬)として世界各地で利用されてきました [1]

主要成分の作用機序として、アントラキノン類(例:エモジン)は大腸を刺激して緩下作用を示し、タンニン類は蛋白質と結合して腸の粘膜を引き締める収斂作用を示します。そのため用量によっては 下痢を止めたり、反対に引き起こしたりする効果 があり、少量ではタンニン優位で下痢止め、大量ではアントラキノン優位で下剤として働くことが知られています[3]

実際、根は便秘や下痢の双方の治療に内部使用され、痔出血や肺からの出血(喀血)、各種の「血の汚れ」による症状(貧血や吹き出物など)や慢性皮膚病の改善にも用いられてきました[3]

このほか、フラボノイドやクマリン類には抗酸化・抗炎症作用があり、アントラキノン類にも抗菌・抗真菌作用が報告されています[4]。根には鉄分が含まれており、西洋ハーブ療法では貧血の改善に役立つ薬草とされています[5]。実際、 鉄分の補給効果に加え消化機能を高め鉄の吸収を助ける作用も期待できる ため、鉄欠乏性貧血の伝統療法にイエロードックの根が用いられることがあります[5]

近年の研究ではイエロードック抽出物に抗腫瘍効果が見られたとの報告や[1]、含有成分のエモジンやクエルセチンにがん細胞増殖抑制作用が確認されるなど[2]、エビデンスの蓄積も進みつつあります。ただし、イエロードックは有効成分が多彩な反面、一部の成分によるアレルギー誘発や免疫性血小板減少症(ITP)などの副作用報告もあり[1]民間利用では注意が必要 です。

Shape and Characteristics

イエロードックの形状や特性

イエロードックの根生葉
Rumex crispus (Curled Dock, Curly Dock, Yellow Dock) | North Carolina Extension Gardener Plant Toolboxby Harry Rose is licensed under CC BY 2.0

図:​ イエロードックの根生葉。葉は長楕円形で長さ 30 ~ 40cm、縁が著しく波打つのが特徴[6]

イエロードックは高さ約 30 ~ 160cm に達する直立した茎を持つ大型の野草です[6]

根は太い直根で黄色味を帯び(英名「イエロードック」の由来)、地中深くまで伸びます。

初夏から秋にかけて茎の先端に円錐状の花序を形成し、淡緑色の小花が輪生状に密集して咲きます[6]

花被片(がく片)は丸みのある三角形で、結実時には褐色に変化して乾燥し、内部に三角形の種子(痩果)を包み込みます[6]。結実期には花序全体が赤褐色に色づき、無数の種子を付けた立ち枯れた姿で目立ちます。

イエロードックの花序(夏)
Rumex crispus (Curled Dock, Curly Dock, Yellow Dock) | North Carolina Extension Gardener Plant Toolboxby Thayne Tuason is licensed under CC BY-SA 4.0

図:​ 小さな淡緑色の花が穂状に多数集まって咲く。花後に果実(種子)は褐色に熟す[6]。種子は長さ 3 ~ 4mm ほどの小粒で、一株の成草が年間に数万粒もの種子を生産します[6]

繁殖は主に種子散布によって行われ、種子は動物の毛や人間の衣服・農機具に付着して広がります[6]

種子の寿命は非常に長く、土中に埋もれた状態で数十年発芽能力を保つことも報告されています。

葉や茎には強い芳香はなく、 味は苦く収斂性がある のが特性です[7]。若葉にはぬめり成分も含まれ、春先の新芽は山菜として茹でて食べられることもあります[8]

全草にシュウ酸を含むため生の大量摂取は避けるべきですが、適切に乾燥・調製されたものであれば薬用として安全に利用できます[4]

Habitat

イエロードックの生息地域

イエロードックはヨーロッパから西アジアおよび北アフリカにかけて原生する植物で、現在では北米や東アジア、オセアニアまで 世界の全大陸に広く分布 する汎存種となっています[6]。特に人里近くの荒れ地や牧草地、道端、河原、耕作地周辺など土壌が攪乱された場所に 雑草 として繁茂しやすく、農地ではしばしば問題雑草となります[6]

やや湿った環境を好みますが環境適応力が高く、乾燥や一時的な冠水、寒冷にも比較的強い耐性を示します[6]。土壌酸性が極端に強い場所以外、栄養分の乏しい土地でも生育でき、逆に窒素分が多い土壌では競合種よりも旺盛に生長します[6]

日本にも明治以降に外来種(帰化植物)として持ち込まれて野生化し、市街地周辺から山間部まで各地で分布が確認されています。現在では北海道から沖縄まで日本全国に広がり、在来種のギシギシ(Rumex japonicus)等と同様に湿った道端や野原、田畑の畦などで群生が見られます[8]

Common Usages

イエロードックの現在の一般的な利用方法

イエロードックルートのチンキ
Image by Caluldi is licensed under CC BY-SA 4.0

イエロードックは現在、ハーブ療法や伝統医療の分野で様々な形で利用されています。

内用 では、乾燥させた根を煎じてハーブティー(デコクション)として飲用したり、アルコールに浸けたチンキ剤として服用したりする方法が一般的です[9]

便秘の緩和を目的に単独で用いられるほか、腸内浄化や皮膚トラブル改善を目的とした デトックスブレンド茶 の材料に配合されることもあります[5]。根を粉末にしてカプセルに詰めたサプリメントも市販されており、緩下作用やミネラル補給による滋養強壮を期待して利用されています[5]

葉や茎も少量であれば食用可能で、クセのある苦味がありますが若い葉柄をサラダに加える地域もあります[4](※シュウ酸を多く含むため大量摂取は避けるべきです)。

外用 では、イエロードックの根を乾燥・粉砕したものが皮膚疾患の民間薬として利用されています。

例えば、根粉末を患部に振りかけて 湿疹や潰瘍の治療 に用いたり、すり潰した生の根を湿布(ポルトイス)として腫れ物や創傷に当てたりするといった伝統的用法があります[3]

収斂作用によって傷口を引き締め殺菌する効果が期待でき、古くから吹き出物・にきび、湿疹、かぶれなど皮膚の炎症トラブルに対する自然療法として活用されてきました[3]

イエロードックを含む軟膏も伝統薬として作られており、痔の痛みを和らげる軟膏や、打撲・筋肉痛に対する湿布剤に他のハーブと合わせて配合されることもあります[3]

Historical Usages

イエロードック歴史的な利用法

イエロードック(および近縁のギシギシ属植物)は、古代より世界各地で民間薬や伝統薬として用いられてきました。

欧米では「血液浄化剤(血液の汚れを取る薬)」として春先のトニックに使われ[10]、開拓時代の北米でも開拓者や先住民によって広く薬用に供された記録があります。実際、 イエロードック(Yellow Dock) の根はアメリカ先住民の伝統医療で癌性病変の治療に用いられたとの報告もあり[2]、癌などの難治病への民間療法の一部として位置づけられていたようです。

一方、東アジアでも本種または類似種が薬草として認識されてきました。

中国では本属の植物を「羊蹄(ヤンティ)」と呼び、根を乾燥させて瀉下や皮膚の腫れ物の漢方薬として利用してきた歴史があります[8]

日本に自生する在来種のギシギシ(Rumex japonicus)は古くから民間薬として 根を便秘薬や皮膚薬に用いる 習慣があります[8]

当時の欧米の薬局方でもイエロードックの根は緩下薬として収録され、健胃・下剤として市販されていました[3]

また、イエロードックは 食糧 としても歴史的に利用されました。

種子はデンプン質を含み、ネイティブアメリカンや欧州の一部地域では挽いて粉にしパンケーキや粥の材料にされた記録があります[3]。特に飢饉の際には小麦粉の代用品として重宝され、焙煎した種子はコーヒーの代替飲料として飲まれたこともありました[3]。若葉はヨーロッパでは春のサラダやスープの野菜として用いられることもあり、ビタミン補給源となっていました[3]

このように、薬用のみならず食用としても人々の生活に寄与してきた歴史を持っています。

Folklore Usages

イエロードックの民俗的な利用法

アフリカや中東の一部地域でもイエロードックは伝承医療に組み込まれてきました。例えば、北アフリカや中東ではマラリアの発熱やアフリカ睡眠病(トリパノソーマ症)に対し、本種の根の煎じ汁が民間治療薬として用いられることがあります[9]

南アフリカの伝統医学でも、感染症全般の治療にギシギシ属植物の抽出液が使われる例が報告されています[9]

こうした地域では科学的根拠というより先祖代々の経験則にもとづき、本草療法の一環としてイエロードックが活用されてきたと言えます。

本属の植物エゾノギシギシ(学名:Rumex obtusifolius)は、 イラクサ(刺草)に刺された患部にドックの葉を擦り付ける という民間療法がヨーロッパの民間伝承で知られています。古くから「Nettle in, dock out(ネトルに刺された痛みをドックで追い出す)」という呪文を唱えながらギシギシの葉を擦り込むと、イラクサの刺す痛みが和らぐと信じられてきました[11]。14 世紀の詩人チョーサーの作品にもこのおまじないが登場するほど有名な民間療法ですが、現代の分析では葉汁自体に解毒成分はなく、摩擦と暗示効果による鎮痛と考えられています[11]。それでもこの習俗は欧米の田舎では現在も子供達に伝えられており、「ギシギシの葉でイラクサの刺し傷を癒やす」という言い伝えとして残っています。

References

イエロードックの参考文献

Compounds

イエロードック (Rumex crispus)の主要含有成分

成分名特性
エモジンアントラキノン誘導体。下剤作用や抗炎症作用が報告されている。
クリソファノールアントラキノン系の一種。緩下作用や抗菌作用があるとされる。
タンニンお茶などに含まれる渋み成分。抗菌・抗酸化・収れん作用があるとされる。
ケルセチンタマネギなどに多いフラボノイド。抗酸化・抗アレルギー作用が強い。
アントラキノンアントラキノン系化合物。便秘薬や下剤に利用される成分で、センナやダイオウに含まれる。
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