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エルダーフラワーの成分と摂取によって期待できる効能
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Sambucus nigra by Willow, CC BY-SA 3.0 https://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0, via Wikimedia Commons |
エルダーフラワーはフラボノイド(例:ルチンやクエルセチン)やフェノール酸類を豊富に含むため、強い抗酸化作用と抗炎症作用を発揮します[1]。こうした有効成分により、エルダーフラワーは古くから発汗・利尿を促す薬草として用いられ、熱や炎症を伴う風邪の症状を和らげるとされています[2]。
実際、ドイツの薬用ハーブ審査委員会であるコミッション E でも、エルダーフラワーは感冒(かぜ)や発熱時の民間療法としての使用が承認されています[3]。その抗炎症作用は喉の痛みや鼻粘膜の炎症を鎮め、さらに軽い利尿作用と相まって鼻づまりや体のむくみを緩和するのに役立ちます。また、最近の研究では、エルダーフラワーのフラボノイド成分がヒスタミン反応やサイトカイン産生に関与し、花粉症などのアレルギー症状緩和に寄与する可能性が報告されています[3]。
エルダーフラワーの生息地域
セイヨウニワトコ(ブラックエルダー)は北アフリカからヨーロッパ、西アジアにかけて広く自生する落葉低木です[4]。湿り気のある森林周辺や河川敷、道ばたの茂みなどに生育し、耐寒性が高く丈夫なため各地に帰化・栽培されています[5]。日本ではセイヨウニワトコの名称で知られ、観賞用やハーブ利用のために栽培されることがあります。
エルダーフラワーの現在の利用方法
現在、エルダーフラワーはハーブティー(乾燥させた花の茶)として親しまれています。単独または他のハーブとブレンドして飲用され、発汗作用や抗炎症作用を活かして風邪やインフルエンザの初期症状の緩和に用いられます。
エルダーフラワーの花を砂糖と柑橘類で煮出したシロップである エルダーフラワーコーディアル は、ヨーロッパで伝統的な飲み物であり、日本でも水などで薄めてジュースとして楽しまれています[6]。
その爽やかな香りと風味を活かして、リキュール(エルダーフラワーリキュール「サン=ジェルマン」など)や菓子のフレーバーとして利用されるほか、天ぷらのように衣をつけて揚げて食用にする地域もあります[7]。
さらに、近年ではエルダーフラワー抽出物が持つ抗炎症・抗酸化作用に注目し、サプリメントの成分や肌を鎮静するとされる化粧水・クリームなどコスメ製品の原料としても利用されています。
エルダーフラワーの形状・特性
セイヨウニワトコ(エルダー)は高さ数メートルから最大で約 10 m 程に育つ落葉低木〜小高木です。樹皮は灰褐色で深い縦割れが入り、枝や幹の中心には柔らかな白い髄質が通っています。葉は対生し、奇数羽状複葉で 3 ~ 7 枚の楕円形の小葉からなります。各小葉は長さ 4 ~ 12 cm 程度で縁には鋭い鋸歯があり、葉を揉むと独特の青臭い匂いを発します[6]。
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Sambucus-nigra foliage by Otto Sheva2, CC BY-SA 4.0 https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0, via Wikimedia Commons |
初夏になると、径 5 mm ほどの小さな淡黄色~乳白色の花を多数咲かせます。花は 5 弁で芳香があり、枝先に平坦な散房状の大きな花序(直径 20 cm 前後)を形成します[5]。
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Common Elder - Sambucus nigra Ian Cunliffe / Common Elder - Sambucus nigra / CC BY-SA 2.0 https://creativecommons.org/licenses/by-sa/2.0, via Wikimedia Commons |
開花後の果実は紫黒色の液果(ベリー状の実)で、径 3 ~ 5 mm ほどの丸い粒が房状に実ります[5]。熟した果実は果汁が多く食用可能ですが、未熟な実や種子にはわずかな毒性(シアン配糖体)も含むため、生食は避け加熱調理して利用されます(ジャムやシロップ、ワイン醸造など)[5]。
乾燥させた花序( Sambuci flos )と完熟した果実( Sambuci fructus )が生薬やハーブ材として用いられる部位です。
エルダーフラワーの歴史的な利用法
エルダーフラワーおよびニワトコ属の植物は、ヨーロッパの伝統薬草療法において長い歴史を持ちます。古代ギリシャの医師ヒポクラテス(紀元前 5 世紀頃)はニワトコの木を自身の「薬箱」と呼んだと伝えられており、その効能の多彩さを讃えています[8]。ヨーロッパでは中世以降、修道院や民間療法でエルダー(ニワトコ)が広く使われ、特にエルダーフラワーの浸出液は発汗を促す解熱剤や強壮剤として家庭で重宝されました。そうした用途の広さからニワトコは「庶民の薬箱(medicine chest of country people)」とも称され、身近な万能薬として親しまれてきた経緯があります[9]。
エルダーフラワーの民俗的な利用法
ヨーロッパ各地にはニワトコの木にまつわる豊かな民間伝承が残されています。
デンマークなど北欧の伝承では、ニワトコの木には「エルダー・マザー」と呼ばれる女精霊が宿ると信じられ、木を切る際には精霊に許しを乞う習慣がありました[10]。
また、「家のそばにニワトコを植えると悪霊や魔女を寄せ付けない」という言い伝えも広く知られています[11]。実際、ヨーロッパ各地でエルダーフラワーやニワトコの枝は魔除けの護符として用いられ、家の戸口に吊るして悪魔払いに利用したり、中空の枝を笛や杖に加工する風習も見られます。
一方で、中世以降の欧州ではニワトコが不吉な木とされる側面もあり、キリスト教圏の伝説では「イエスが処刑された十字架はニワトコで作られた」という話や「裏切り者ユダはニワトコの木で首を吊った」という逸話が語られてきました[9]。
このように護符・聖木としての顔と、死や闇に結びつく忌み木としての顔を併せ持つ点は、エルダーの民俗的な特徴として興味深いものです。
エルダーフラワーの参考文献
エルダーフラワー (Sambucus nigra)の主要含有成分
成分名 | 特性 |
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ルチン | ソバや柑橘類に多い。血管を強くし、ビタミンCの吸収を助ける。 |
ケルセチン | タマネギなどに多いフラボノイド。抗酸化・抗アレルギー作用が強い。 |
ケンペロール | 多くの野菜や果物に含まれるフラボノイド。抗酸化・抗アレルギー作用。 |
クロロゲン酸 | コーヒーなどに多く含まれるポリフェノール。抗酸化・血糖値低下作用。 |
ウルソール酸 | リンゴの皮などに多く含まれる。筋肉増強や抗炎症作用が注目される。 |
β-シトステロール | 植物ステロール。コレステロール吸収を抑制し、前立腺肥大にも関連があるとされる。 |