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ローズヒップの成分と摂取によって期待できる効能
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Dog roses (Rosa canina) on a shrub in Gåseberg, Lysekil Municipality, Sweden. by W.carter, CC0, via Wikimedia Commons |
ローズヒップは栄養豊富であり、その健康効果は主に含有成分によるものです。まず注目すべきはビタミンCの含有量で、果実100g中に数百mg以上含むこともあり、これはオレンジの20~30倍に相当します[1]。
ローズヒップにはビタミンEやB群、βカロテンなどの カロテノイド 類、そしてポリフェノールの一種である フラボノイド 類も豊富に含まれます[2]。これらの抗酸化成分が相乗的に作用し、細胞を酸化ストレスから保護すると考えられています[2]。
こうした抗酸化・抗炎症作用により、ローズヒップの摂取はさまざまな健康効果をもたらす可能性があります。例えば伝統的に「風邪の予防」に用いられてきたように、ビタミンCやフラボノイドによる抗ウイルス・抗菌作用で感冒症状の緩和が期待されます[3]。
また近年の研究では、ローズヒップ由来の特定成分が 関節の痛み を和らげる可能性が示されています。実際、変形性関節症の患者にローズヒップ粉末を投与した複数の臨床試験をメタ分析した結果、偽薬より有意に痛みが軽減したとの報告があります[4]。このような抗炎症作用は関節リウマチや変形性関節症などの 関節の健康 に寄与するサプリメントとしてローズヒップが注目される理由の一つです。
さらにローズヒップには 代謝改善 効果も報告されています。ローズヒップの種子に含まれるポリフェノール「ティリロサイド」には脂肪代謝を促進する作用があり、肥満予防への有効性が研究されています[3]。あるプラセボ対照試験では、肥満傾向の成人が12週間毎日ローズヒップエキス(ティリロサイド含有)を摂取したところ、内臓脂肪面積や体重・BMIが有意に減少しました[3]。この結果から、ローズヒップは 体脂肪の低減 やメタボリックシンドローム予防にも役立つ機能性が期待されています。以上のように、ローズヒップは免疫力の強化、美肌・美容、抗酸化による生活習慣病予防、抗炎症による関節ケア、さらには代謝改善まで、幅広い効能が期待できるハーブと言えます。
ただし、これらの効果を得るには適切な摂取量と継続が重要であり、効果の程度には個人差がある点に留意が必要です。
ローズヒップの生息地域
ローズヒップは野生のバラの果実の総称で、特に代表種であるドッグローズ(学名 Rosa canina)はヨーロッパやアジア、北アフリカを原産地とする落葉低木です[5]。ヨーロッパ全土のほか、中東や北米にも広く分布しており、温帯〜亜熱帯の地域で自生しています[1]。
丈の高い茂みを形成し、初夏(5〜7月頃)に淡いピンク色の一重の花を咲かせた後、秋に赤い実(ローズヒップ)を結びます[5]。
乾燥や寒冷な環境にも比較的強く、日当たりの良い草原や藪、森林の縁など多様な環境に生息しています。季節になると真っ赤に色づいたローズヒップが野山の景観を彩り、鳥や小動物の餌ともなっています[5]。
ローズヒップの現在の利用方法
現在、ローズヒップは食品から化粧品まで幅広く利用されています。
もっとも一般的な用途の一つは ハーブティー(ローズヒップティー) です。乾燥させたローズヒップの果皮をお湯で煮出すと、美しいオレンジ赤色の酸味のあるお茶が得られます。ビタミンCとクエン酸由来のさわやかな酸味が特徴で、喉を潤しつつビタミン補給ができるため、風邪予防の飲料やリフレッシュしたい時のティーとして親しまれています。
ハイビスカスなど他のハーブとブレンドして飲まれることも多く、ローズヒップティーはカフェインを含まないため就寝前や妊娠中でも安心して飲めるハーブティーとして人気があります。
食品分野では、ローズヒップは ジャムやシロップ、飲料 の原料として利用されています。果肉に甘酸っぱさと豊富なペクチン質を含むため、伝統的にヨーロッパではローズヒップのジャムやピューレが作られてきました。特に北欧や東欧ではローズヒップのスープやペーストが昔から家庭で親しまれ、パンに塗ったりデザートソースに用いられたりします。
また、第二次世界大戦中のイギリスでは輸入果物が不足する中、野生のローズヒップからシロップを大量生産し子供達のビタミン補給に充てた記録もあります。
現在でもローズヒップシロップはビタミン飲料やリキュールの材料として利用されています。
健康食品・サプリメントの分野でもローズヒップは重要な素材です。乾燥した果皮や種子から抽出したエキスをカプセルや顆粒にしたサプリが市販されており、 美容目的 (美肌・アンチエイジング)や 関節ケア 目的の製品が多く見られます。実際、関節の痛み緩和については前述のように一定のエビデンスが報告されており[4]、こうしたサプリメントは中高年層を中心に利用されています。
また近年、日本ではローズヒップ由来ティリロサイドを含む食品が体脂肪を減らす機能性表示食品として注目を集めています。このようにローズヒップは 機能性食品 の素材としても活用が広がっています。
さらに 化粧品 としての利用も見逃せません。ローズヒップの種子から抽出される ローズヒップオイル は、スキンケアオイルとして高い人気があります。ローズヒップオイルにはリノール酸やα-リノレン酸といった必須脂肪酸が豊富に含まれ、肌の保湿や再生を促す効果が期待されます[2]。実際、軽度の傷跡にローズヒップオイルを塗布したところ皮膚の治癒が促進したとの報告もあり[6]、皮膚の瘢痕ケアやアンチエイジング用途で使用されます。また、ローズヒップエキスを配合した化粧水やクリームも市販されており、その 美容効果 (シミ・シワの予防、美白補助など)に注目が集まっています。
このようにローズヒップはお茶・食品からサプリ・化粧品まで多彩に利用され、現代の健康志向・美容志向に応えるハーブとして定着しています。
ローズヒップの形状・特性
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Rosa Canina by Nick Dvalishvili, CC BY-SA 3.0 https://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0, via Wikimedia Commons |
ローズヒップの外見は、一見すると赤い小さな実のように見えますが、正確にはバラの 偽果 (ぎか:花托が肥大化した果実)です。大きさは種類にもよりますが直径1~2cm程度の球形から楕円形で、色は鮮やかなオレンジ~赤色に熟します[1]。果実の先端には花の咲いた後の萼片(がくへん)が乾燥して黒っぽく残っており、これがローズヒップの特徴的な外観を形作っています(上写真参照)。
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Rosa canina inflorescence (59) by Jean-Jacques HOUDRÉ, CC BY-SA 2.0 FR https://creativecommons.org/licenses/by-sa/2.0/fr/deed.en, via Wikimedia Commons |
果皮の内側には硬い 種子 が多数詰まっており、その種子を包む細かな繊毛(毛状の突起)が存在します。この繊毛は皮膚に触れると強いかゆみを引き起こす性質があり、扱う際には注意が必要です[7] [8](昔はこの毛を集めて「かゆい粉(いたずら粉)」として遊んだという民間伝承もあります)。
ローズヒップの果肉(正確には花托由来の部分)は肉厚ではありませんが、多糖類の ペクチン や有機酸を含むため柔らかく煮崩れしやすいです。熟した実は僅かに甘みと酸味があり、生食もできますが繊毛が口に刺さると不快なため通常は加工して利用されます。乾燥させた果皮は橙赤色の硬い殻のようになり、市販のハーブティー用ローズヒップはこれを細かく砕いた形で流通しています。
種子にはビタミンEや脂肪酸が含まれ、圧搾すると淡黄色~橙色の ローズヒップオイル が得られます。
ローズヒップの歴史的な利用法
ローズヒップの利用の歴史は非常に古く、紀元前からその効能が知られていました。考古学的な発見によれば、紀元前2000年頃には既にヨーロッパで野生のバラの実が食用にされていた形跡があります[7]。中世ヨーロッパの薬草書にもローズヒップが登場しています[9]。
特に有名なのは 第二次世界大戦中のイギリスでの活用 です。戦時下では南欧からの柑橘類の輸入が途絶え、国民のビタミンC不足が深刻化しました。そこでイギリス政府は代替策として国内の野生バラからローズヒップを大量に収穫するプログラムを推進しました。1943年にはイギリス全土で約500トンものローズヒップが子供やボーイスカウトなどによって採集され、シロップに加工されて配給されています[10]。このローズヒップシロップは子供の栄養補給源として戦後もしばらく利用され、壊血病予防に大きく貢献しました。このようにローズヒップは「非常時のビタミン源」として歴史的にも重要な役割を果たしています。
ローズヒップの民俗的な利用法
ローズヒップには各地で様々な民俗伝承や俗称が残されています。ヨーロッパでは前述のとおり 壊血病除け として珍重された歴史から、「健康の果実」といったイメージが定着していますが、一方でユニークな俗称も存在します。フランスではローズヒップのことを俗に「グラット・キュ(gratte-cul)」=「お尻かき(尻ひっかき)」と呼ぶことがあります[5]。これは果実内部の細かい毛が肌をチクチクとかゆがらせることに由来し、子供たちが乾燥した実を砕いて人の背中に入れる「かゆい粉遊び」をしたことからその名が定着したと言われます[5]。英語でもローズヒップのことを子供向けに「イッチィコー(itchy-coo)」と呼ぶ地域があり、同様の由来を持つ遊び歌に登場します[11]。
また、ローズヒップの代表種「ドッグローズ(犬バラ)」という名前にも興味深い伝承があります。これはその昔、「狂犬病に犬に噛まれた際、このバラの根を薬として用いれば治る」という民間信仰があったことに由来します[7]。18~19世紀のヨーロッパでは犬バラの根をすり潰して服用することで狂犬病の治療を試みた記録が残されており、ラテン語種小名の canina(犬の)もこの伝承にちなむものです[5]。もっとも現代の医学的知見からすれば効果は期待できず、この治療法は歴史の中に埋もれていきましたが、植物の名前としてその名残が残った形です。
民間療法の分野でも、ローズヒップは各地で様々な用途に供されてきました。例えばヨーロッパの伝承では、ローズヒップのシロップは 利尿剤 として用いられ、腎臓や膀胱の不調を和らげると信じられていました[7]。また下痢(赤痢)の治療や痛風の痛み緩和にも役立つとされてきまし[7]。これらは現代の知見から見ると、ローズヒップに含まれるペクチンの整腸作用や抗炎症作用による部分もあるかもしれません。
ローズヒップの参考文献
※『Porkington Treatise』
-
Comparative Study of Bioactive Compounds and Biological Activities of Five Rose Hip Species Grown in Sicily - PMC ↩ ↩2 ↩3
-
Therapeutic Applications of Rose Hips from Different Rosa Species - PMC ↩ ↩2 ↩3
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Daily intake of rosehip extract decreases abdominal visceral fat in preobese subjects: a randomized, double-blind, placebo-controlled clinical trial - PMC ↩ ↩2 ↩3
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Does the hip powder of Rosa canina (rosehip) reduce pain in osteoarthritis patients?--a meta-analysis of randomized controlled trials - PubMed ↩ ↩2
-
Rosehip Oil Promotes Excisional Wound Healing by Accelerating the Phenotypic Transition of Macrophages - PubMed ↩
-
Early English miscellanies, in prose and verse : Halliwell-Phillipps, J. O. (James Orchard), 1820-1889 ed : Free Download, Borrow, and Streaming : Internet Archive ↩
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History The wild plants that helped win two wars | Morning Star ↩
ローズヒップ (Rosa canina)の主要含有成分
成分名 | 特性 |
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ビタミンC | 水溶性ビタミン。抗酸化・免疫強化・コラーゲン生成など多機能。 |
カロテノイド | 植物の黄色や赤の色素。βカロテンなどがあり、抗酸化作用が強い。 |
フラボノイド | 植物の二次代謝物。抗酸化・抗炎症・血管強化など幅広い健康作用があるとされる。 |