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レモンバームの成分と摂取によって期待できる効能
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Melissa officinalis Lemon balm by aomorikuma, CC BY-SA 3.0 http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0/, via Wikimedia Commons |
レモンバームは古くから穏やかな鎮静効果が知られており、不安やストレスの軽減に寄与するとされています。近年の研究でも抗不安作用や抗うつ作用を示す結果が報告されています[1]。
また、レモンバームの摂取は睡眠の質を向上させる可能性があり、不眠症の緩和に役立つと考えられています[1]。バレリアン(セイヨウカノコソウ)やカモミールなど他の鎮静ハーブと併用することで、入眠を促し安眠効果を高めるハーブティーとして利用されることも多いようです[2]。
レモンバームは記憶力や注意力といった認知機能をサポートする可能性も指摘されています。実際、レモンバーム抽出物の摂取によって気分および記憶力が改善したとの報告もあり、脳のコリン作動性や GABA 作動性経路への作用が示唆されています[1]。
伝統医学においては、レモンバームは消化不良や胃腸の不調に対する民間薬として用いられてきました。胃腸のガスや痙攣(けいれん)を緩和し、食欲不振を改善する効果があるとされています[3]。実際、鎮痙(ちんけい)作用により食後の膨満感や腹部の不快感を和らげるハーブティーとして親しまれているようです。
他にもロスマリン酸などのポリフェノールが豊富に含まれ、高い抗酸化活性を示すことが知られています[3]。この抗酸化作用により、体内の酸化ストレス軽減や細胞保護に寄与する可能性があります。また、レモンバーム抽出物は抗ウイルス作用も持ち、特に単純ヘルペスウイルス(HSV)に対して増殖抑制効果が報告されており、口唇ヘルペスの症状緩和などに応用されています[4]。
レモンバームの生息地域
レモンバームは地中海沿岸の南ヨーロッパから西〜中央アジアにかけて自生するハーブです[5]。
耐寒性が強く繁殖力も旺盛なことから、人為的な栽培を通じて北アフリカやアジア、アメリカ大陸を含む世界中の温帯・亜熱帯地域に広く定着しています[5]。現在では各地のハーブ園や家庭菜園でも栽培され、日本でも観賞用や食用ハーブとして普及しています。
レモンバームの現在の利用方法
- ハーブティー・サプリメント :
主な利用方法として、レモンバームの乾燥葉はハーブティーとして日常的に楽しまれており、リラックス目的や消化促進のために用いられています。特に、レモンバーム単独または他のハーブとブレンドしたお茶は、就寝前のリラックス飲料として親しまれています[2]。また、その有効成分を濃縮したエキスはサプリメントやチンキ剤(ハーブエキス液)として、不安の軽減や睡眠改善などを目的に利用されています。
レモンバームはレモンに似た爽やかな香りとほのかな苦味を活かし、料理のハーブとしても用いられます。
刻んだ生葉はサラダや魚・鶏肉料理のソースに加えて風味付けに使われるほか、デザートではアイスクリームやフルーツポンチの飾りにも利用されます。飲料ではミネラルウォーターやカクテルに加えて香りを移したり、ヨーロッパでは古くからジャムやジェリーの風味付け、ポプリ(香り袋)にも使われてきた記録があります。レモンバームの爽やかな香味は甘味・塩味を問わず料理に幅広く応用されているといえます。
また、レモンバームから抽出される精油(エッセンシャルオイル)は、鎮静や気分安定を期待してアロマテラピーに用いられます。
葉や花を水蒸気蒸留して得られる精油は非常に芳香が高くリラックス効果があるとされますが、原料に対する精油収率が極めて低いため純正のメリッサ精油は非常に高価です。そのため市販の製品ではレモンバームやレモンバーベナなど香りの似た精油をブレンドしたものも多く出回っています。精油は芳香浴のほか、希釈してトリートメントオイルやバスオイルとして利用され、心身の緊張を和らげる用途で人気があります。
また、その芳香から石けん、ハンドクリーム、リップバームなどの化粧品や、アロマキャンドルの香料にも用いられており、家具用ポリッシュ(艶出し剤)の香り付けに利用された例もあります[2]。
レモンバームに含まれる抗菌・抗ウイルス成分を活かし、外用剤としても利用されます。例えばレモンバーム抽出物を配合したクリームは口唇ヘルペス(単純ヘルペス)の治療に市販されている例があり、患部の治癒促進や再発予防に役立つとされる[4]。
レモンバームの形状・特性
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Melissa officinalis3 by Nabokov at the English Wikipedia, CC BY-SA 3.0 http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0/, via Wikimedia Commons |
レモンバームは高さ 60〜100cm ほどに成長する多年草で、株はよく分枝して茂み状(ブッシュ状)になります[6]。
茎は四角形で柔らかい毛に覆われ、対生する葉を付けます。
葉は長さ 2〜8cm 程度の楕円〜ハート形で、表面にしわが多く葉脈がはっきりと浮き出ています[6]。葉縁には浅い鋸歯があり、葉や茎を擦るとレモンに似た爽やかな香りが立ち上ります。葉の色は環境により濃緑色から明るい黄緑色まで変化し、質感は柔らかで触るとやや毛状のざらつきがあります。
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Lemon Balm (Melissa officinalis) blooming in the Beechview neighborhood of Pittsburgh by Cbaile19, CC0, via Wikimedia Commons |
初夏から夏にかけて、葉の付け根(葉腋部)からごく小さな唇形花を房状に咲かせます。花の色は白や淡い黄色で、ときに薄桃色を帯びます[5]。花は 1cm にも満たない小さなものですが芳香のある蜜を含み、ミツバチやチョウなどの昆虫を強く引き寄せます[5]。
晩秋になると地上部は枯れますが根は地中で生き続け、春になると再び新芽を出します[6]。極めて繁殖力が強く種子や地下茎で拡がりやすいため、放任すると周囲に自生地を広げ半ば野生化することもあります[6]。寒冷地でも越冬可能な強健さを持ち、栽培容易なハーブとして知られています[6]。
レモンバームの歴史的な利用法
レモンバームの利用の歴史は古く、少なくとも古代ギリシア・ローマ時代まで遡ります。
紀元前 4 世紀頃の古代ギリシアの植物誌にも本種の記録があり、2000 年以上前から薬用・香料用に用いられてきたことが示されています[1]。古代ギリシアではミツバチを引き寄せる蜜源植物としても珍重され、属名の「Melissa(メリッサ)」はギリシア語で「蜂」を意味します[7](ちなみにビーバームは別の植物の呼称です)。
ローマ時代には養蜂家が新しい巣箱にレモンバームを擦り付けてミツバチの群れを誘引したとの記録が残されています[8]。
中世ヨーロッパでは修道院の薬草園で栽培され、薬草酒や薬剤の材料として用いられました。14 世紀にはレモンバームと他の薬草をアルコールに浸けた薬用酒が考案され、修道院から「長寿の秘薬」として広まったとも言われます[8]。中世後期からルネサンス期にかけての薬草学者たちもレモンバームの薬効に言及しており、スイス生まれの医師パラケルススはこのハーブを「生命のエリクサー(霊薬)」と称賛したと伝えられます[8]。
17 世紀にはイギリスのハーブ医療書において「心を慰め、すべての憂鬱と悲しみを追い払う」と記され、当時から神経衰弱や抑うつに効果があるハーブと考えられていました[8]。
さらに 18 世紀以降も欧米各地でハーブ療法に取り入れられ、アメリカ合衆国へも移民によって持ち込まれて家庭薬やハーブティーとして定着しました[8]。
レモンバームの民俗的な利用法
古くはその心形(ハート形)の葉にちなみ、「心臓を健やかにし精神を高揚させる」と信じられてきました(いわゆる特徴説・特徴類時説?「Doctrine of signatures」:植物の形状から効能を類推する中世ヨーロッパの理論)。実際、前述のとおりハート形の葉を持つレモンバームは悲嘆や憂鬱を払うハーブとみなされたり、長寿をもたらすとも考えられていました[8]。
レモンバームの参考文献
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Clinical Efficacy and Tolerability of Lemon Balm (Melissa officinalis L.) in Psychological Well-Being: A Review - PMC ↩ ↩2 ↩3 ↩4
-
Melissa officinalis L: A Review Study With an Antioxidant Prospective - PMC ↩ ↩2
-
Local therapy of herpes simplex with dried extract from Melissa officinalis - PubMed ↩ ↩2
-
Lemon Balm, Melissa officinalis – Wisconsin Horticulture ↩ ↩2 ↩3 ↩4
-
Melissa officinalis: Composition, Pharmacological Effects and Derived Release Systems—A Review - PMC ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5
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Lemon Balm: An Herb Society of America Guide ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6
レモンバーム (Melissa officinalis)の主要含有成分
成分名 | 特性 |
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ロスマリン酸 | ローズマリーやシソに含まれる。抗炎症・抗菌作用があるとされる。 |
シトラール | レモングラスの主要香気成分。レモン様の香りでリラックス効果があるとされる。 |
オレアノール酸 | オリーブや薬草に含まれるトリテルペン。抗炎症・肝保護作用など。 |
ウルソール酸 | リンゴの皮などに多く含まれる。筋肉増強や抗炎症作用が注目される。 |