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レモングラスの成分と摂取によって期待できる効能
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Image by Bishnu Sarangi from Pixabay |
レモングラスの最大の特徴は、その芳香を生み出す精油成分です。
中でも主成分の シトラール (柑橘系の香気成分、ゲラニアールとネラールの混合物)は全体の 65 ~ 85%を占め[1]、この成分がレモン様の香りと多くの薬効をもたらすとされています。また、 ゲラニオール や シトロネラール 、 リモネン 、 ミルセン (ミルセン)などのモノテルペン類も含まれ、それぞれが相乗的に作用していると考えられます[1] [2]。
これら精油成分には強い抗菌・抗真菌作用が確認されており、シトラール(ゲラニアールおよびネラール)は大腸菌や黄色ブドウ球菌などへの抗菌効果を示します[2]。またレモングラス精油は皮膚真菌(白癬菌など)に対して顕著な抗真菌活性を持ち、古くから水虫などの民間治療に利用されてきました[3]。加えて、マラリア原虫やリーシュマニア原虫といった寄生虫に対する抑制効果も報告されており[3]、広範囲な抗微生物作用を持つハーブとして注目されています。
さらにレモングラスには 抗酸化作用 や 抗炎症作用 も認められています。
試験管内および動物実験では、レモングラス抽出物が細胞を酸化ストレスから保護し、炎症を抑制する効果が示唆されています[1]。例えばレモングラス葉の熱水抽出物は、ラットの足浮腫モデルで抗炎症効果を示しました[3]。
また精油成分の一つシトロネロールは、動物実験で血圧低下(血管拡張)作用が確認されており[1]、高血圧に対するハーブ療法としての可能性も検討されています。
こうした科学的知見は、伝統的に言い伝えられてきた効能を裏付けるものと言えます。
レモングラスの香りや成分による リラックス効果 も注目されています。
ブラジルなどでは古くから神経を鎮める薬草として用いられてきましたが[1]、現代の研究でもその一端が検証されています。小規模ながらヒトを対象とした試験では、レモングラス精油の香りを吸入すると一時的に不安や緊張の指標が低下し、ストレスからの回復が早まるとの結果が報告されています[4]。
一方で、レモングラス茶の経口摂取による顕著な鎮静効果は明確に示されておらず、リラックス効果については芳香療法(アロマテラピー)の文脈で期待されることが多いようです。
総じてレモングラスは、 抗菌・抗真菌 から 抗酸化 , 抗炎症 , 鎮痛 , リラックス効果 に至るまで多岐にわたる効能が期待できるハーブですが、ヒトでの十分な臨床エビデンスは限定的であり、これらの効果を医学的に確立するには今後の研究が必要とされています[2] [3]。
レモングラスの生息地域
レモングラス(Cymbopogon citratus)は元々、 南アジア(インドやスリランカ)から東南アジアの島嶼部 にかけて自生していた熱帯性の植物です[1] [2]。インド亜大陸やタイなどが原産地とされ、現在ではアジア全域のほかアフリカや南北アメリカの熱帯・亜熱帯地域に広く分布しています[1]。
第一次世界大戦後にはマダガスカルや中南米にも導入され、各地で商業的に栽培されるようになりました[1]。
暑さと日照を好む一方で耐寒性は低く、霜が降りるような寒冷地では越冬できません。そのため温帯では一年草扱いで栽培されたり、鉢植えで屋内管理されることが一般的です。日本でも沖縄など暖かい地域であれば露地栽培が可能で、本州以北では夏のガーデニング用ハーブや温室栽培として楽しまれています。
現在、レモングラスは熱帯アジア(タイ、ベトナム、インドネシアなど)で商業生産が盛んで、ハーブティー用乾燥葉や精油の形で世界中に輸出されています。またアフリカ(ケニアやタンザニアなど)や南米(ブラジル、グアテマラ等)でも栽培が行われており、各地域の気候や土壌に適応して繁殖しています[5]。
このようにレモングラスは世界の熱帯・亜熱帯地域に広がっており、その爽やかな香りから各地で人気のハーブとして定着しています。
レモングラスの現在の利用方法
現代において、レモングラスは 料理・飲料 から アロマセラピー 、 日用品 に至るまで幅広く利用されています。
まず食品分野では、そのレモンに似た爽やかな香味を生かして 香辛料・ハーブ として重宝されています。タイやベトナム料理では新鮮なレモングラスの茎をスープ(例:トムヤムクン)やカレーの香りづけに欠かせず、刻んだり潰したりして加えることで独特の風味を与えます[6]。
乾燥させた葉は ハーブティー として世界中で親しまれています。単独で淹れるとレモン汁に似た風味(酸味はほとんど無し)で、他のハーブ(ミントやレモンバーム等)とのブレンドもしやすく、リフレッシュ効果のあるティーとして愛飲されています[6]。
レモングラスから抽出される 精油(エッセンシャルオイル) も重要な利用形態です。
レモングラス精油はシトラールの芳香を濃縮したもので、 アロマテラピー ではリフレッシュ効果やリラックス効果を期待してディフューザー等で焚かれます。殺菌・消臭効果を活かし、ルームスプレーや天然の虫除けスプレーとしても利用されています。実際、シトロネラグラス(近縁種)由来のシトロネラ油は蚊避けキャンドルや虫除け剤に広く使われていますが、レモングラス精油にも同様の忌避効果があるため夏場のアウトドア製品に配合されることがあります。
また、レモングラスの爽やかな香りは 石鹸・シャンプー・化粧品 などの日用品や、ポプリ・キャンドルなどの芳香アイテムにも取り入れられています。食品業界でも香料や防腐目的で利用されており、レモン風味の清涼飲料やハーブリキュールのフレーバーとして使われる例もあります。
こうした利用の幅広さに伴い、レモングラスは健康補助食品の素材としても市場に出回っています。例えばレモングラスの乾燥粉末や抽出エキスをカプセルにしたサプリメントが販売され、消化促進やリラックスを謳う商品も見られます。しかし、医薬品ではないため効果や安全性については自己責任での使用が求められます。 安全性面 では、妊娠中・授乳中の利用に注意が必要です。大量摂取や高濃度精油の使用は刺激が強いため、適切な範囲で香りと風味を楽しむことが推奨されます。
レモングラスの形状・特性
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Cymbopogon citratus (Lemongrass, Lemon Grass, Oil Grass) | North Carolina Extension Gardener Plant Toolboxby Forest and Kim Starr is licensed under CC-BY 2.0 |
レモングラスは外見的には一見するとススキや稲に似た姿をした 背の高い草 です。
イネ科の多年草であり、株立ち状にまとまって生育します。その葉は細長いリボン状で、長さは約 50 ~ 100cm、幅は 5 ~ 15mm 程度に達し、先端が次第に細く尖ります[2] [5]。葉の表面は滑らかですが縁はややザラつき、触れると紙で指を切ったような感覚を与えることもあります。また葉には平行脈(葉脈が平行に走る特徴)があり、折れにくく丈夫です。
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Cymbopogon citratus (Lemongrass, Lemon Grass, Oil Grass) | North Carolina Extension Gardener Plant Toolboxby Forest and Kim Starr is licensed under CC-BY 2.0 |
葉は基部で茎を包む筒状の葉鞘となり、叢生することで地表近くに 球根状の茎塊 (バルブ状の下部茎)を形成します。この茎の下部は淡黄色から薄緑色で肥大しており、レモングラス特有の香りが最も強い部分です。食用にはこの 茎の下部 が利用され、繊維質ですが包丁で刻んだり潰したりすると芳香が際立ちます。
成株の高さはおよそ 1 ~ 2 メートルに達し、密に茂った 株状 の姿はボリュームがあります[2]。根は短く細かなひげ根状で地中浅く広がり、旺盛な繁殖力を示します。熱帯では条件が良ければ年に数回収穫でき、葉を刈り取っても地下茎から再生して繰り返し生育します。
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香茅 Cymbopogon citratus -香港大埔海濱公園 by 阿橋 HQ, CC BY-SA 2.0 https://creativecommons.org/licenses/by-sa/2.0, via Wikimedia Commons |
レモングラスは花をつけにくい植物ですが、原産地のような高温多湿の環境下では 花序(穂状花序) を形成します[5]。花序は先端に複数の小穂(しょうすい:小さな穂)を束ねたもので、全体としては房状に垂れ下がるような形です。しかし観賞目的で花を見る機会は少なく、専ら葉と茎の収穫が目的となります。
レモングラスの歴史的な利用法
レモングラスは 古くから薬草・香料 として人々に利用されてきました。
原産地のインドや周辺地域では、その芳香と薬効から伝統医学(アーユルヴェーダなど)で重用され、発汗作用を促す 解熱剤(発熱時の民間薬) や、消化を助ける健胃剤として用いられてきた記録があります(アーユルヴェーダでは「Santāpa(発熱・高温)」、「Arocaka(食欲不振)」と表現されています)[7] [8]。実際、レモングラスは一部地域で「フィーバーグラス(熱の草)」とも呼ばれ、熱が出た際に煎じた茶を飲む習慣が今なお残っています。インドの伝統療法では 鎮痙(けいれん止め) や 鎮痛 、 鎮静 など多彩な作用を持つハーブと位置づけられ、咳止めやリウマチ痛緩和、胃腸の不調改善など幅広い適応症が伝えられてきました[1] [3]。
また東南アジア各地でも民間薬として、頭痛や風邪の治療、産後ケア(後述)などに利用された歴史があります[5]。
西洋においてレモングラスが注目されるようになったのは 近世以降 です。16 ~ 17 世紀頃には東南アジアからヨーロッパにその香り高いオイルが紹介され、フィリピンでは 17 世紀には既に精油の蒸留が行われヨーロッパ向けに販売されていたとの記録もあります[9]。
レモングラス精油は安価な香料源として重宝され、19 世紀末から 20 世紀初頭にかけてインドで大規模栽培と蒸留生産が展開されました。
第一次世界大戦後には需要の高まりを受けて旧イギリス領など世界各地の熱帯に栽培が拡大し、特にマダガスカルや西インド諸島では 「西インドレモングラス(West Indian lemongrass)」 として商業生産が盛んになりました[1]。
レモングラス精油は香水産業でシトラールを抽出する原料となり、またビタミン A 合成の中間物質として工業的価値も持っていたため、20 世紀中頃までは貴重な輸出品でした。日本でも昭和初期に台湾などで試験的な栽培が行われた記録があります[10]。
このように歴史を通じて、レモングラスは 薬草・香料・嗜好品 として多面的な価値を認められてきました。
各地の伝統医療で培われた知見は、現代の研究によって一部科学的に検証されつつあります。現在では歴史的利用法を踏まえ、レモングラスの有効成分を新たな医薬品開発に活かそうという研究も進められています[3]。
この長い利用の歴史がレモングラスの安全性と有用性の裏付けにもなっており、現代人にとっても馴染み深いハーブとして受け継がれています。
レモングラスの民俗的な利用法
レモングラスには各地域の民俗的な知恵や伝承に根ざしたユニークな利用法が存在します。ブラジルの先住民クラホ族の間では、レモングラスは 不安を和らげるお茶 として用いられてきました。彼らはレモングラスに鎮静・催眠(眠りを誘う)・抗けいれんの効果があると信じており、精神を落ち着かせる民間療法として重宝しています[1]。
アジア地域でも民俗的利用法が数多く伝えられています。東南アジアの一部、例えばマレーシアやインドネシアでは、産後の女性の回復を促すための ハーブ湯 にレモングラスの葉や茎が使われてきました[5]。出産後の入浴時にレモングラスを含む薬草風呂に浸かることで、身体を温め疲労回復や衛生を図るという伝統的ケアです。また、レモングラスが蛇除けになるといった言い伝えも各地に存在します。強い香りを放つ植物であることから、虫除けや魔除けの象徴として扱われてきた面もあるのでしょう。
カリブ海諸島ではレモングラスは「 フィーバーグラス(熱草) 」の名で呼ばれ、民間療法の中心的存在です。ジャマイカなどでは発熱時にレモングラスの葉を煮出したお茶を飲む習慣があり、「熱を下げるお茶」として家庭に根付いています。
このような民俗的利用法は科学的根拠に基づいたものではない場合も多いですが、長年の経験に裏打ちされた生活の知恵として現代まで受け継がれています。レモングラスの場合、抗菌作用で傷や感染症を防いだり、芳香で害虫を避けたりといった効果が結果的に人々の健康を守ってきた可能性があります。民間伝承は各地で様々ですが、総じてレモングラスは「身近で頼れる香りの良い薬草」という位置づけで語られており、これが現在の広範な利用にもつながっていると言えるでしょう。
レモングラスの参考文献
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Cymbopogon citratus - Wikipedia ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9 ↩10 ↩11
-
Antiviral, Antibacterial, Antifungal, and Anticancer Activity of Plant Materials Derived from Cymbopogon citratus (DC.) Stapf Species - PMC ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6
-
Scientific basis for the therapeutic use of Cymbopogon citratus, stapf (Lemon grass) - PMC ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6
-
Effect of Lemongrass Aroma on Experimental Anxiety in Humans - PubMed ↩
-
The Ayurvedic Pharmacopoeia of India : India. Ministry of Health and Family Welfare. Department of Health : Free Download, Borrow, and Streaming : Internet Archive ↩
-
Wisdom Library; The portal for Hinduism, Sanskrit, Buddhism, Jainism, Mesopotamia etc... ↩
-
Complete Guide to Lemongrass: Growing, Harvesting, and Using ↩
レモングラス (Cymbopogon citratus)の主要含有成分
成分名 | 特性 |
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シトラール | レモングラスの主要香気成分。レモン様の香りでリラックス効果があるとされる。 |
ゲラニオール | ゼラニウムやローズに含まれる芳香成分。抗菌・虫除け効果があるとされる。 |
リモネン | 柑橘類の皮に多い精油成分。リラックスや消化促進作用があるとされる。 |
ミルセン | ホップやマンゴーに含まれるテルペン。鎮静作用や抗炎症作用。 |