ゴボウ(Arctium lappa)の期待される効能・使い方・成分

ゴボウの概要

ゴボウ(学名 Arctium lappa)はキク科の根菜で、日本やアジアを中心に食用および薬用に利用されてきた植物です。その根には水溶性食物繊維イヌリンやポリフェノール類を豊富に含み、古来より利尿・発汗による解毒や皮膚疾患の治療など健康効果が期待されてきました。

ゴボウ

ゴボウの期待される効果・効能

ゴボウの根には、食物繊維イヌリンやポリフェノール(クロロゲン酸など)、リグナン(アルクチゲニンなど)といった有効成分が含まれ、抗酸化作用や抗炎症作用、利尿・解毒作用、皮膚の改善など健康・美容への効果が期待されています。ただしヒトでの有効性は十分な科学的証拠が確立していません。

About

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Efficacy

ゴボウの成分と摂取によって期待できる効能

ゴボウ
Image by Ralph from Pixabay

ゴボウの根には炭水化物の一種である イヌリン (水溶性食物繊維)が多く含まれます。

イヌリンは腸内環境を整え、緩やかな血糖値上昇に寄与するとされますが、 メタアナリシス (複数研究の統合解析)では糖尿病などに対する有意な効果は確認されていません[1]。イヌリン摂取による便通への影響も研究間で結果が分かれており、効果があったとする報告では一日 10g 以上のイヌリンが用いられています[1]。これはゴボウ約 250g 相当量にあたり、日常の食事で摂取するには多量です。そのため通常の食事量での摂取では顕著な健康効果は期待しにくいと考えられています[1]

一方、ゴボウから抽出したイヌリンとクロロゲン酸を機能性関与成分とするゴボウ茶が近年 機能性表示食品 として販売されており、血糖値や整腸への働きがアピールされています。こうした商品では高濃度の成分摂取が可能ですが、効果を実感するためには継続摂取が必要とされています。

ゴボウは有効成分として多彩な フィトケミカル (植物由来化合物)も含みます。

皮にはポリフェノールの一種である クロロゲン酸 が豊富で、ゴボウを水にさらすと茶色に染み出す成分です[1]。クロロゲン酸を含むポリフェノール類には抗酸化作用があり、活性酸素の消去による細胞保護効果が報告されています。

またゴボウの種子にはリグナン系の苦味成分である アルクチインアルクチゲニン (アクチゲニン)を含み、実験レベルでは抗炎症・抗ウイルス作用が確認されています[2]。例えばアルクチゲニンはインフルエンザ感染マウスに対して免疫機能を高める効果や、培養細胞での抗がん作用(がん細胞の増殖抑制・アポトーシス誘導)も報告されています[3]

そのほか根に含まれる ポリアセチレン 系化合物(アセチレン結合を持つ有機化合物)は抗菌・抗真菌作用を示すとの研究もあります。

これらの成分により、ゴボウには抗酸化・抗炎症を通じた生活習慣病予防や、美肌効果などが期待されています。実際、江戸時代の薬草書にも「血の滞りを散じ、膿を出す」といった記載があり、皮膚の吹き出物や喉の腫れを治す薬効が述べられています。伝統的に「血液を浄化する」薬草とも言われ、吹き出物や慢性疾患に対するデトックス効果が信じられてきました[4]

こうした効能は現代でも健康茶やサプリメントの宣伝文句に使われていますが、 ヒトを対象とした信頼性の高い臨床研究では、特定の疾病予防・治療効果は明確に証明されていません [1]。特に「癌が治る」「○○ に劇的に効く」などの宣伝は科学的根拠に乏しく、注意が必要です。

北米ではゴボウを含むハーブティーが癌治療に効くという エシアック茶 が市販され一時話題になりましたが、米国食品医薬品局(FDA)はエビデンスが無い代替医療だとして販売者に警告を出し、消費者にも注意喚起しています[1]

このようにゴボウの健康効果については伝統的な評価と現代科学の検証にギャップがあり、民間療法レベルの効能は数多く伝えられているものの、その全てが医学的に裏付けられているわけではない点に留意が必要です。

Habitat

ゴボウの生息地域

ゴボウ(Arctium lappa)はユーラシア大陸原産の植物で、ヨーロッパから東アジアまで温帯域に広く分布しています[3]

日本を含む東アジアでは古くから自生し、後述のように薬草・野菜として利用されてきました。現在では人間の活動に伴って各地に広がり、北アメリカやオーストラリアなど世界各地で野生化( 帰化 )しています[3]

道端や荒れ地、河原など日当たりの良い肥沃な土壌を好み、しばしば 雑草 (有害雑草)として扱われることもあります。特に窒素分に富む土壌で繁茂しやすく、農地周辺では注意が必要です。

日本国内でも野菜として栽培されていない地域で野生化したゴボウが見られ、在来の近縁種と同様に河原などに群生することがあります。

Usage

ゴボウの現在の利用方法

食用利用: ゴボウは現在、日本や東アジアで主に食用とされる根菜です。日本では日常的に料理に使われる代表的な野菜であり、きんぴらごぼうやたたき牛蒡、煮物、味噌汁の具など様々な料理に利用されています。独特の香りと歯ごたえを持つゴボウの根は、皮ごと調理して食物繊維やポリフェノールを摂取できる食材として重宝されています。

中国や欧米では日本ほど一般的な食材ではありませんが、韓国では 牛蒡茶 (우엉차)として煮出した茶が飲まれるほか、炒め物やきんぴら風の料理で食べられることもあります。

中国では一部の地域で日本向け輸出用に栽培も行われていますが、国内では薬用としての利用が中心です。ゴボウは低カロリーでありながら食物繊維やミネラル類が豊富なため、健康志向の食材としても近年注目されています。

薬用利用: ゴボウは伝統医学において長い歴史を持つ薬用植物でもあります。漢方では果実(種子)を 牛蒡子 (ごぼうし)と称し、現在も日本薬局方に収録された生薬です。牛蒡子は解毒・消炎作用を期待して処方される生薬で、たとえば漢方方剤の 消風散駆風解毒湯 など皮膚疾患や喉の炎症に対処する処方に配合されています[1]

また、ゴボウの根も利尿・発汗を促す薬草 牛蒡根 (ごぼうこん)として利用されてきました[1]

民間療法では後述するように、種子や葉を直接用いる様々な活用法が各地に伝わっています。

中国の 中医学 でも牛蒡子は喉の腫れや熱性疾患の治療に古くから使われ、現在の中医薬処方にも登場します。

これら伝統的な薬用の流れを受け、近年はゴボウ根を原料とした健康食品やサプリメントも普及しています。例えばゴボウ茶は健康茶として市販され、ゴボウエキスを配合したサプリも「デトックス効果」「肌トラブル対策」などを謳って販売されています。

ただし前述の通り、これらの効能については科学的な裏付けが十分でないものもあり、医薬品ではなく食品として販売される製品は効果の保証がないことに留意が必要です。

美容・その他の利用: ゴボウ由来の成分は美容分野でも利用されています。

代表的なものに ゴボウ油(ごぼう根油) があり、ゴボウの根を油に浸出させて得たエキスは頭皮や毛髪のトリートメントに用いられます[1]。これは英語圏では Burdock root oil, Bur oil と呼ばれ、伝統的にフケの防止や育毛に期待されてきました[4]。現在でもゴボウ根エキスはシャンプーや育毛剤の成分として配合されることがあります。

また抗菌作用への期待から、ゴボウエキスを配合した石鹸やスキンケア製品も市販されています。その他、ゴボウから抽出した食物繊維やポリフェノールを活かした機能性食品の研究も行われています。例えば前述のゴボウ茶はその一例で、継続摂取による血糖値や体調への影響について現在も研究が進められています。

Appearance

ゴボウの形状・特性

ゴボウの花
Image by Goran Horvat from Pixabay

多数の筒状花からなり、緑色の棘状の総苞片が球状に集まっている。総苞片は先端が鉤状に曲がっており、果実(痩果)が成熟するとこれが動物の毛や衣服に引っ掛かり、種子の散布に寄与します。この特徴から英名で「バードック(Burdock、意味: からす麦+とげ)」と呼ばれ、またこの鉤がヒントとなって面ファスナー(マジックテープ)が発明された逸話も有名です。

ゴボウは草丈 1〜2 メートルほどになる大型の草本で、栽培環境が良いときは 3 メートル近くまで生長することもあります[3]

二年生植物 (または短命な多年草)であり、発芽した初年は根出葉を地表にロゼット状に広げ、翌年に茎を長く伸ばして開花・結実します。葉は互生し、大型の 心形葉 (ハート形)で縁はやや波打ち、表面は深緑色、裏面には綿毛が密生して白っぽく見えます[3]

葉柄も長く発達し、太い茎と相まって大型の株になります。夏(日本では 7〜9 月頃)になると茎の先端や枝先に直径 3〜4cm ほどの球形の花序を多数つけ、紅紫色の小花を咲かせます[3]

花序の基部には緑色のとげ状の総苞があり、前述のように先端が鉤状に曲がります。開花後、この花序全体が乾燥して茶色くなり、丸い 実(種子団) となって秋に地上部ごと枯れ落ちます。各花序には多数の種子が含まれ、それぞれが長さ 5〜6mm 程度の細長い 痩果 (そうか:乾燥した果実)です。痩果の先端には細かい 冠毛 (綿毛状の突起)があり、総苞から外れると風で飛ばされたり動物に付着したりして拡散します。

ゴボウの は食用とされる部分で、太い 直根 (主根)がそのまま肥大化したものです。根は細長い円柱状で、長さ 50cm 以上、野生種では 1m 近くに達する例もあります[3]。直径は品種や生育環境によりますが 2〜5cm 程度で、先端に向かって次第に細くなります。外皮は灰褐色から黒褐色で筋っぽく縦にひび割れた質感を呈し、中の可食部(木部)は象牙色で繊維質です。栽培物では柔らかく瑞々しい肉質ですが、野生のゴボウは内部がスカスカに空洞化するものもあります[1]

ゴボウの根を切ると変色して茶褐色になるのはポリフェノール類が酸化するためであり、水にさらすとそれらが溶出して水が茶色になります。ゴボウ特有の土臭さや渋みはこれらポリフェノールやサポニンなどによるもので、下処理として水にさらしたり酢水につけたりすることでアク抜きが行われます。

ゴボウの種
Arctium lappa (Bardane, Beggar's Buttons, Burrdock, Edible Burdock, Gobo, Great Burdock, Greater Burdock, Lappa, Snake's Rhubarb, Thorny Burr) | North Carolina Extension Gardener Plant Toolboxby Matt Lavin is licensed under CC-BY-SA 2.0

種子は褐色で扁平な楕円形をしており、表面に微細な模様があります。種子にはデンプンはほとんど含まれず硬い殻に包まれるため、そのままでは発芽しにくく、多くは動物に運ばれた後に殻が割れて発芽条件が整います。

ゴボウ全草には目立った 香り (精油成分)はありませんが、掘り起こした根には土のような独特の香気があります。これはゴボウの精油成分(ごく微量)や土壌中の微生物由来物質が混ざった香りと考えられています。

Historical Use

ゴボウの歴史的な利用法

ゴボウは東アジアとヨーロッパ双方で古くから利用されてきた植物です。中国では少なくとも約 1700 年前の 魏晋南北朝時代 まで遡る薬用記録が残っています。4 世紀頃編纂されたとされる古医書『 名医別録 』には「悪実(あくじつ)」という名でゴボウの種子が記載され、解毒・消腫の薬物として分類されています[1]。その後の唐代の本草書『新修本草』や明代の『本草綱目』などにも牛蒡(ごぼう)の名で登場し、主に 清熱解毒 (体内の熱を冷まし解毒する)作用のある生薬として評価されてきました。

日本へは中国から薬草として伝来し、その定着は平安時代中期以降と考えられています。文献上の初出は平安中期(10 世紀頃)の『 新撰字鏡 』という漢和辞典で、この中で牛蒡が「ウバラミ」と読まれる薬草として登場します[1]。当時はまだ栽培されておらず、野生のゴボウが薬用に採集されていたとみられます。その後、平安時代末期になると牛蒡を食用野菜として利用した記録が現れます[1]。鎌倉時代以降、日本ではゴボウは 精進料理 などにも取り入れられ、人々の食生活に定着していきました。江戸時代には栽培も広まり、各地の特産品種が生まれるなど野菜としての地位を確立しました。一方で漢方薬としての牛蒡子も用いられ続け、江戸期の『和漢三才図会』や明治期の『本草綱目啓蒙』などに薬用効果や調製法が詳しく記載されています。

ヨーロッパにおいても、ゴボウは古代から薬草として知られていました。

古代ギリシャの医師ディオスコリデスはゴボウに似た植物(おそらく Arctium 属)の根を利尿剤や解毒剤として用いたと伝えられます。

民間療法的には「血を浄化する薬草」として位置付けられ、春先に体内の毒を出す 浄血剤 としてゴボウと他の薬草を混ぜた茶を飲む習慣も一部で行われていました。これらの伝承は後に北米へも伝わり、欧米のハーバリスト達によって引き継がれています。実際、アメリカ先住民もゴボウに類する植物を薬用に用いた記録があり、19 世紀頃には欧米薬局方に Burdock root (Radix Bardanae) として収録され、利尿・発汗を促す生薬として扱われました。

日本からヨーロッパへは江戸時代にオランダ人によってゴボウの種子が持ち込まれ、観賞用や薬用植物として栽培された経緯もあります。ゴボウの挿絵が含まれる 1804 年出版の日本の農書『成形図説』は蘭学者を通じて欧州にも知られ、ゴボウという植物の存在を西洋の博物学者に認識させる一助となりました[5]

Folklore

ゴボウの民俗的な利用法

民間伝承の中で、ゴボウは「熱を取る力が強い薬草」とされ、古来より様々な家庭療法に用いられてきました。その一部を以下に紹介します。各地に伝わる方法であり、現代の科学的裏付けは十分ではありませんが、先人の知恵として語り継がれています。

  • 種子(牛蒡子)- 乳腺炎: 授乳中の乳腺炎(乳房の腫れと痛み)に対し、炒ったゴボウの種子をそのまま噛んで食べる、または煎じて服用する民間療法があります[1]
  • 種子 - 風邪・喉の痛み・咳: 発熱を伴う風邪や扁桃腺の腫れ、咳などに、牛蒡子を 2〜3g 程度水で煎じて 1 日数回に分けて服用する方法が知られています[1]
  • 種子 - 湿疹・おでき: 顔や体の湿疹、膿をもったおでき(癤・疔)などの皮膚疾患には、牛蒡子 5〜8g を 600cc の水で半量(約 300cc)になるまで煎じ、それを 1 日 3 回に分けて服用する方法が伝えられています[1]
  • 種子 - むくみ: 利尿作用を期待して、体に水がたまる むくみ (浮腫)の改善にゴボウ種子の粉末を用いる民間療法があります[1]
  • 葉 - 神経痛・リウマチ: ゴボウの大きな葉は外用薬としても利用されました。神経痛や関節リウマチの痛む部位に、生のゴボウ葉を火で炙ってしんなりさせたものを患部に貼ると痛みが和らぐといわれています[1]
  • 葉 - 湿疹・かぶれへの外用: 夏に採取して陰干ししたゴボウの葉は、乾燥させて保存し浴湯料(入浴剤)やうがい薬に利用されました。乾燥葉を布袋に入れて風呂に浮かべたゴボウ風呂は、皮膚の かぶれ や湿疹に良いとされ、肌の熱感やかゆみを鎮めます。また乾燥葉を煎じた液でうがいをすると喉の腫れや痛みに効果があると伝承されています[1]

このようにゴボウは家庭薬として内服・外用ともに幅広く活用されてきました。いずれの療法も現代医学の標準治療ではありませんが、ゴボウのもつ発汗・利尿作用や抗炎症作用に着目した伝統知識と言えます。今日では民間療法として実践されることは少なくなりましたが、一部は漢方や薬草療法の中に形を変えて受け継がれています。

References

ゴボウの参考文献

Compounds

ゴボウ (Arctium lappa)の主要含有成分

成分名特性
イヌリンチコリやゴボウに多く含まれる水溶性食物繊維。整腸作用があるとされる。
アルクチゲニンリグナン系化合物で、抗ウイルス・抗炎症作用が報告されている。ゴボウなどに含まれる。
アルクチインアルクチゲニンの配糖体で、抗酸化作用を持つ。ゴボウの種子に多い。
クロロゲン酸コーヒーなどに多く含まれるポリフェノール。抗酸化・血糖値低下作用。
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ゴボウ (Arctium lappa)の関連タグ

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